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政治家あるいはメディアパーソナリティとしての田中康夫は注目されたとしても、彼の書いたものは不当なまでに評価されていない。読んだ限りにおいて最も印象的な田中康夫評は斉藤美奈子の近著(岩波書店)である。そこにおいては、当然のことながら彼の固有名詞に対するこだわりが論じられている。すべては、一番最初の著作「なんとなく、クリスタル」から始まっているのだ。これを単なるブランド記号の羅列と捉える評価は、全く馬鹿げている。小説本文は読まれたとしても、おびただしい注釈が全くといっていいほど無視されてきたことは、何より誤った評価が一般化してきたことを物語る。固有名詞としてのブランドのもつ意味、コンテクストを理解しないと作品の価値は半減する。「注釈」において過剰なる批評性がこめられているのであればなおさら。そう、彼の一連の文章はすべてそうした、固有名詞の羅列/批評的注釈の双対性においてこそ語られるべき筋合いのものなのだ。本書は食事を通じての彼の自叙伝である。今まで行ったレストラン、食べた食事という「固有名詞」を通して彼の関わってきた人物という「固有名詞」を論じる。その両者の扱いにおいて遠慮会釈が全くないところが彼の芸の真骨頂なのである(私個人的に彼の文章自体は全くうまいと思わないが)。固有名を出すということは、一般論で批評することよりもよほど勇気がいるし覚悟がいる。またそういう批評でなければ読む側は退屈である。 一炊の夢 関連情報




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