White Music
このアルバムでは、バリー・アンドリュースのくすぐったいようなキーボードが大きな役割を果たしており、現在のXTCとは趣きが異なっている。
今聞くと、テクノパンクのよくできたパロディーのように聞こえる。楽しいアルバムである。
XTCファンはもちろんのこと、当時のニューウェーブを聴きなおしたいという人にも必聴の一枚である。
Mummer
アルバム『Mummer』は、XTC の経歴の中でも、もっとも彼らの特性が面に現れているものかもしれません。このアルバムでは、彼らは、面を被る無言劇の扮装をしているのですが。
また、このアルバムから、パートリッジは、音盤を作り上げる、その過程にも意識を持って臨むようになりました。録音を記録ではなく、作品へと織り上げていく過程だと考えるように。それが、このアルバム以降では、扮装をした写真を使うこととも繋がっていると思います。音盤を、独立した作品と考え、その中で演奏している自分達も、実際の自分達ではなく、創造された架空の人物と看做しているのです。
(架空の人物が、現実世界の舞台に上がって演奏することは不可能です)
(『Black Sea』でも、当初は架空のバンドを構想していたので扮装してますが)
このアルバムの魅力は、それぞれの歌が、お互いに反映し合っていることから発していると考えます。一つの歌の余韻が、別の歌に浸透して、響きを増幅しているようです。その干渉が成功しているのです。
「Wonderland」は、「水辺」「少女」と言う印象を浮かべています。それは、「Ladybird」の「草地」「成人女性」との印象の下層となっています。そして、「Ladybird」の「虫」「火事」と言う印象は、「Great Fire」を惹起します。また、同時に、「Wonderland」にある「冷たい水」の印象は、「Great Fire」へ挿入されています。そして、「Great Fire」で吹き上がった「風」は、「Me and the Wind」を吹き抜けています。一方で、「Ladybird」の「草地」は、「 In Loving Memory of a Name」の「墓地公園」へと続いています。
また、ムールディングの「Wonderland」「Deliver Us from the Elements」「In Loving memory of name」は、「水」「気(空)」「土(人)」の象徴になっています。これに、パートリッジの「Great Fire」「Ladybird」「Me and the Wind」が「火」「大地」「風」となって呼応しています。同時に、この三つは、「現在」「未来」「過去」でもあります。
『Mummer』は、『Skylarking』がそうであるように、一人の者が明確な意図を持って、構成したものではないでしょう。偶然が重なって出来した一期一会のものなのでしょう。偶々そこに落ちていた石に、どういう加減か木漏れ日が射してその先端に当たり、光が回析を起して周囲に幾本もの異った色の光線を投げ、それが、また、別のものに当って変調された光を投げ…。
ある種の不可思議さが、この『Mummer』にはある様です。それは、ゆらぎなのかも知れません。「Wonderland」で、静かな池の中に深く沈められた鐘が鳴って起ったゆらぎは、アルバムを通して聴こえてくるようで、「Me and the Wind」の、高い空で鳴っている虎落笛にまで、伝わっているようです。
Black Sea [2001 Reissue]
80年発表。デビュー以降着実に成長を遂げてきた彼ら。彼らならではのひねくれた楽曲は勿論素晴らしいです。それまでリリースしたアルバムの中にあった素晴らしい要素をこのアルバムの中に取り入れながらも、1つ1つの楽曲がオリジナリティを持っていることは、注目すべき点だと思います。キンクス調の"Respectable Street"で幕を開け、"Generals and Majors"での余分のない音作り、パンクロック調の"Living through Another Cuba"、そして"Travels in Nihilon"での冷たく、そして息の詰まるような感じ…と、あらゆる要素が詰まっていて、個性的です。とても良い作品です。