島田虎之介 ランキング!

島田虎之介 九月十月 (IKKI COMIX)

これまでの島田作品の中で恐らく最も難解な作品です。登場人物のやりとりはむしろ日常的で、難しいことは何も言っていないのですが、「結局これは一体何の物語なのだろう」という意味でとても難しい。口はばったい表現になりますが、読者による「解釈」を必要とする「文学」的な作品なのでしょう。私は今のところ「家」と「手に入らない理想の家への憧憬」の物語ではないかと思っているのですが間違いなく人によっても読む時期によっても答えが割れる話で、そもそも答えを出すこと自体が不粋な類の作品なのだろうと思います。(気になって新聞の書評も読みましたが、内容面は深く触れられておらず、 何となく皆自分の解釈が正解なのか、そもそも正解があるのか測りかねている節もあるのではと感じました)コマ割りはいつにもまして映画的で、タテ割りのコマの連続はカメラの動きまで想起でき、こちらの美しさについてははっきりとわかりました。 九月十月 (IKKI COMIX) 関連情報

島田虎之介 トロイメライ

ヴァルファールトという1台のピアノと、そのピアノに関わる人々の数奇な運命。それら各々のエピソードが、絡まりあって展開しながら、100年の年月と、世界を股にかけるスケールでもって語られてゆく。物語が最後に辿りつくのは、あのシンプルで優しいメロディの最初の一音。絵は無骨だし、語り口は訥々としていて饒舌なところなど皆無だが、その分、表現が研ぎ澄まされているので、読んでいてイマジネーションを大いに喚起される。とても素敵な映画を観た気分になれる作品。 トロイメライ 関連情報

島田虎之介 東京命日

 「ユリイカ 2013年11月臨時増刊号 総特集=小津安二郎 生誕110年/没後50年」はとても良い本だった。ただし多くの映画評論家諸氏が渾身の小津論を展開している中にあって、本作の作者島田虎之介氏の寄稿だけが肩の力が抜けていて、一服感が漂っている。それは小津作品の印象的なカットをイラスト化したものが4枚見開きで、そしてその上に本作の宣伝も含んだ(笑)コメントをかぶせているだけのものだが、私はなぜかそれに強く魅かれて本作を衝動買いした。そして読み終わった今となっては「ユリイカ〜」からの最大の収穫は紛れもなく本作である、と断言したい。 本作は03年4月から04年12月まで「アックス」に連載された11の短編を収録している。本作の特徴は主要登場人物が、近親者、友人、先輩そして他人の「死」によって生き方を変えざるを得なくなることを、独特の語り口で描くもの。第一話の小林清と埴輪という若者がTVCM製作会社に見習いディレクターとして入社してからの人間模様に始まって、各編異なる主役たちの(その主役たちは他のお話ではワキ役としても頻繁に登場する)身辺に訪れるさまざまな「死」をモチーフとして有機的に繋がる連作、そしてユーモラスだけれども荘厳でもある群像劇。主なエピソードをおおまかに書き連ねると、1.小林清が入社して間もなく編集部の「とっちん」が急死する。それにショックを受けた小林は休みの日に有名人の墓を訪ねて撮影し「東京命日」という映像作品を趣味で製作することにする。2.ストリッパー「藪ケイト」はファンのストーカー男と駅のホームでもみ合いとなり誤って男を線路に落として轢死させてしまう。その結果、彼女はその男の幽霊に苛まれることになる。3.小林の先輩青沼みどりは、先輩で伝説の天才CMディレクター、逗子芯太の自殺によって生じた心の空白に辛い日々を送ることになる。4.ピアノ調律師の戸田ナツ子はピアニストのミケランジェリの公演ドタキャンが遠因で両親を亡くし、歳の離れた姉に育てられるが、その姉も早世する。ある日親戚の家で姉の人生の謎の部分が明らかになり、衝撃を受けるナツ子。5.消防士の竹中孝蔵は代々消防士の家系である。彼の祖父忠蔵の自慢は昭和23年に玉川上水で情死した太宰治を発見したことである。6.青沼みどりのライバルの「安土四十六(あづち よそろく)」は大金持ちの父が死ぬと、CMディレクターを廃業せざるを得なくなる。 等々となる。主要人物のキャラの造形は実によくできているし、ワキ役たちも実に個性的。たとえば「とっちん」、「とっちん」の葬式のお坊さん、藪ケイトの「芸術家の卵の元カレ」、青沼みどりの思い出の中の逗子芯太、竹中忠蔵が川から引き揚げた太宰の死に顔など。さらに細部に至るまでのエピソードも良い。私が特に気に入っているのは「ナツ子の姉の謎」のお話で、完全に解明されることなく途中で終わる所が絶妙の余韻を残します(涙)。次に藪ケイトがレンタル店から借りて最初に観る小津作品がなんと「長屋紳士録」。そこで彼女は小津作品を観ている間は幽霊が出ないことに気づいて、小津作品を頻繁に鑑賞することになる(ちなみに次は「東京暮色」)。安土四十六の故郷は青森県の津軽地方で、彼が父の葬式に出るために帰郷したとたんに周りで津軽弁が氾濫するなど(ここでの津軽弁表記はほぼ完ぺきです!)、作者の仕掛け、こだわり、そしてあらゆることに関する造詣の深さは、目を見張るものがある。南伸坊の装丁も、相変わらずいい仕事してます。 以上のことから言って本作は個人的には過去十年間に読んだ最高の漫画作品のひとつと断言しても良い。そして漫画だけではなく月並みでない物語を愛好する文学ファンにもオススメいたします!! 東京命日 関連情報




Loading...


ここを友達に教える