最初にタイトルを見たとき、どんな性格ブスの物語なのだろう思った。確かに教師時代は体裁と自己の評価を保つことだけに支配された高慢な女だった。ところが窃盗事件に端を欲し家を飛び出したところから愛を希求する対象が父親から男へ変わる。セックス・ドラッグ・バイオレンス、揚げ句の果てには男を殺して服役する。転落し続ける松子の人生。殴られても裏切られても引きずられても愛を乞う女。女であれば共感できる部分もあるのではないだろうか。それ以外の方法論を知らないというところに人格の歪みを感じるが、それがまた松子の魅力でもある。著者が描きたかったのは打算や理性で幸福を掴み取る女ではない。まるで幼い子供のように泣きながら盲目的に愛を乞う女だ。例えバカだと言われようが、松子をそうさせるのは大人たちが失ってしまった純真な魂に他ならないからだ。一方で松子の生涯を紐解いていくうちに大人へと成長を遂げる笙と明日香の視点も、若い世代に向けたメッセージを含んでいて素晴らしい。松子の視点で描写される過去、笙の視点で綴られる現在。ページをめくるごとに時間軸が近づけていく手法が読者をどんどん物語の中に引き釣り込んでいく。 嫌われ松子の一生 (上) (幻冬舎文庫) 関連情報
最近、あらためて全編 観なおしましたが僕はドラマをみて初めて泣きました純粋な女性、松子が悪い方向に流され行くさまは、自分が何とかしてやりたい 気持ちになり心がとてもハラハラして、時間を忘れてドラマの中の一人になったようだった気がしました。内山さん演技は、素晴らしい世間の評価は低すぎると思います。 ドラマ版 嫌われ松子の一生 Vol.4 [DVD] 関連情報
とことん不器用で不幸な松子、その人生がミュージカル調に描かれています。内山理名主演でドラマ化もされた人気作。中谷美紀演じる松子自身の語りに、ミュージカルが挿入されるドラマと、瑛太演じる甥っ子が松子の人生を辿っていくドラマの、二つの視点が折り重なって展開していきます。もとは歌が上手で生徒から慕われる教師だった松子が、どのようにして河川敷で殺され遺体となって発見されるに至ったのか、不幸てんこもりの人生ドラマです。この映画の特徴は何と言っても、独特の色使いとCGを利用した演出、ところどころに挿入されるミュージカルです。映画が始まって最初の数分間は、中島哲也監督のセンス(色やCGの使い方、テンポなど)の良さが特にわかる、気合の入った部分かと思います。まだ、松子は登場しない部分ですが、つかみはばっちりです。ミュージカル部分では、人気歌手も登場して、その時どきの松子の心情が表現されていて、こちらも耳に残るメロディーや、CGを使った演出が面白いです。『シカゴ』に雰囲気がとても似ているシーンもありましたが、舞台設定が同じ箇所だったので、そう感じただけでしょうか。たいていの映画や本は、最初の数分(数ページ)を観れば、大体の全体感が推測できるのですが、本作の場合は途中から一気に評価が変わりました。肝心なのは、明らかに自ら不幸を引き寄せている松子に、共感ができるようになるかどうかだと思います。途中までは、松子の頭の足りない部分や男を見る目のなさが不幸を招いているだけに見えて、自業自得!といらいらしたのですが、それも度重なってくると、それが彼女の生き方であり愛であるということがわかってきます。まさか泣ける映画と思っていなかったので、松子の孤独に身を置いて、涙が止まらなくなったときには驚きました。ただ、人によって松子に共感できるかどうかは、かなり分かれるような気もします。演出面の巧さに関しては、大方の人が異存のない作品だと思います。 嫌われ松子の一生 通常版 [DVD] 関連情報
最近、あらためて全編 観なおしましたが僕はドラマをみて初めて泣きました純粋な女性、松子が悪い方向に流され行くさまは、自分が何とかしてやりたい 気持ちになり心がとてもハラハラして、時間を忘れてドラマの中の一人になったようだった気がしました。内山さん演技は、素晴らしい世間の評価は低すぎると思います。 ドラマ版 嫌われ松子の一生 Vol.2 [DVD] 関連情報
中谷美紀主演でミュージカル仕立ての映画になったことにより、’03年に書かれた本書が、原作として一躍ブレイクした。川尻松子の、23才の新任中学教師時代から53才で孤独な死を迎える、昭和45年から現在までの波乱の生涯を描いている。この小説は、映画とは異なり、松子の存在すら知らなかった甥が、彼女の辿った人生を追跡してゆく章と、松子自身が実際の出来事を語る章とが交互に交錯して展開してゆく。彼がつかんだ事実から謎が広がり、それを松子の一人称が明らかにしてゆく。さすがはミステリーの新人賞で世に出た著者ならではの、読み手の関心を先へ先へとどんどん進ませ、ページを繰る手を休ませない叙述スタイルである。一般に本書は「転落の人生」、「男運のない女」、「流転の生涯」の物語として受け止められるのだろうが、私は読み終えてまた別の印象も受けた。松子は、最初と最後の事件を除いて、情熱的で激情的な性格ゆえ、「今はこれしかない」、「思い込んだら命がけ」とばかりに、自ら過酷な状況に飛び込んで、いずれも裏目に出て幸せにはつながらないのだが、その時その時を精一杯生きたといえるのではないだろうか。能天気で軽薄大学生だった甥は、はじめは興味本位だったが、次第に松子の人生の軌跡を追うことに没頭し、ついには裁判所の傍聴席で激情するまでになる。彼は単に松子の生涯の悲運に同情したのではなく、彼女の生き様の凄まじい迫力とか情念といったものに心を突き動かされたのだと思う。本書では、松子の41才から50才までがわずか1ページで記されているだけだが、彼女は40代の10年間分をそれだけで済ませられるほど、それまでの20年弱を“激しく”、 “濃く”生きてきたのである。 嫌われ松子の一生 関連情報