チャイコフスキー:交響曲第4番 グリンカ:≪ルスランとリュドミラ≫序曲
冒頭に当時のラジオ東京(現TBS)のアナウンサーによる簡単な紹介があり、病気で来日できなかったムラヴィンスキーの師匠にあたると紹介していました。本質とは外れますが、アナウンサー(男性)と通訳(女性)の話し方が、1958年当時のしゃべり方で、その意味ではこの録音の貴重さが伺えました。調べて見ますと、アレクサンドル・ガウクがレニングラード国立フィルハーモニック管弦楽団の首席指揮者を務めていたのは、1930年から1934年までで相当以前の話ではあります。彼は1963年に亡くなっていますので、1958年の来日した5年後の話でした。グリンカの≪ルスランとリュドミラ≫序曲は快活な演奏で、半世紀前の演奏にしては(一定の限界はありますが)録音も明瞭でした。「巨匠たちのジャパン・ライヴ音源をリマスター」という音源価値は大変高いですが、ガウクの指揮ぶりを知りたいというリスナー以外にはあまりお勧めできません。ムラヴィンスキーの名演奏が耳に残るチャイコフスキーの「交響曲第4番」ですが、モノラル録音ですし、ナローレンジの録音がどうしても時代を感じてしまいます。懐かしい音質と言えばいいのでしょうが。木管パートの音色も美しく、個々の奏者の力量が高いのは聴き取れました。録音(テープの保存状態なのでしょうか、音揺れも感じました)はともかく、演奏の質は高く、当時としては熱狂的ともいえる演奏でした。特に第4楽章は圧巻です。スピード感もあり、現代の演奏と比較しても興味深い解釈でした。疾走感と高揚感に溢れる演奏でしょう。7分前後からラストまでのスピード感は今聴いても惚れ惚れします。実に統率のとれたレニングラード・フィルのメンバーでした。当時の日本人は度肝を抜かれたことでしょう。そんな感想を持ちました。演奏終了と同時の盛大な拍手がそれを物語っています。演奏終了後にアナウンサーが演奏の感想を述べているのが印象的でした。1960年に演奏されたムラヴィンスキーの名盤チャイコフスキーの後期3大交響曲(レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団)の演奏のルーツを知る上でも貴重です。1958年4月15日〜5月15日まで、全国各地で20回くらいの演奏会を行っていたわけですから、その精力的な活動もまた表彰ものでしょう。大阪フェスティヴァルホールのこけら落としでの実況演奏ですから、その意味でも本アルバムは貴重な録音だということでしょう。旧ソヴィエト国立交響楽団にまさしく君臨していたスヴェトラーノフのお師匠さんでもありましたから、旧ソ連を代表する指揮者で教育者であったことは間違いないですね。 チャイコフスキー:交響曲第4番 グリンカ:≪ルスランとリュドミラ≫序曲 関連情報
アレクサンドル・ガウク名演集 (Alexander Gauk Edition)
アレクサンドル・ガウクは、アレクサンドル・グラズノフ門下の音楽家である。当初はピアノも弾ける作曲家を志望していたようだが、ペテルブルク音楽院で学生オーケストラを指揮したことで指揮者としての道を志すようになったという。ニコライ・マルコの後任としてレニングラード・フィルハーモニー交響楽団の首席指揮者を務めたり、ソヴィエト国立交響楽団の創立指揮者(創立当初はソヴィエト国立放送交響楽団等と呼ばれていた)を務めたりと、旧ソ連の音楽界では重鎮の指揮者だった。彼は相当数の録音を残しているのだが、一般発売されていたものは多くなかった。こうしてまとまった形でガウクの録音がリリースされることは、彼の芸風を再評価するうえで大きな助けとなるだろう。収録している演目は以下の通り。表記はこのCDボックスの表記に基づく。CD1★ドミトリ・ショスタコーヴィチ:交響曲No.5(1957年12月4日録音)★セルゲイ・ラフマニノフ:3つのロシア民謡(1956年12月19日録音)モスクワ放送交響楽団★セルゲイ・ラフマニノフ:カンタータ《春》(1956年6月26日録音)エフゲニー・キブカロ(Bs)モスクワ放送交響楽団CD2★ドミトリ・ショスタコーヴィチ:交響曲No.11 《1905年》(1958年12月21日録音)モスクワ放送交響楽団★ニコライ・リムスキー=コルサコフ:賢者オレグの歌(録音年不詳)ドミトリー・タルコフ(T)コンスタンティン・ポリャエフ(Bs)全ソ連国立放送合唱団&小交響楽団CD3★アラム・ハチャトゥリアン:《スパルタカス》組曲(1957年1月録音)ボリショイ劇場管弦楽団★ミハイル・グリンカ:ポルカNo.1(1951年10月31日録音)大交響楽団★ミハイル・グリンカ:カマリンスカヤ(1958年12月13日録音)モスクワ交響楽団CD4★アラム・ハチャトゥリアン:交響曲No.1(1958年12月15日録音)モスクワ放送交響楽団★ミハイル・グリンカ:友情の追憶(1957年3月26日録音)ボリショイ劇場管弦楽団★グリンカ:祖国愛の歌(1950年12月30日録音)ソビエト国立交響楽団CD5★ニコライ・ミャスコフスキー:交響曲No.17(1959年7月15日録音)モスクワ放送交響楽団★セルゲイ・プロコフィエフ:偉大なる十月社会主義革命30周年のためのカンタータ(1961年4月15日録音)大交響楽団&合唱団★プロコフィエフ:ロシア序曲(1961年1月11日録音)モスクワ放送交響楽団★ニコライ・イワノフ=ラドケヴィチ:ロシア序曲(1944年4月7日録音)国立交響楽団CD6★ピョートル・チャイコフスキー(アレクサンドル・ガウク編):四季(1953年12月-1954年2月録音)ソビエト国立交響楽団★ミリー・バラキレフ(アルフレード・カゼッラ編):イスラメイ(1957年3月25日録音)★アレクサンドル・グラズノフ:春(1958年1月31日録音)★アレクサンドル・グラズノフ:ワルツop.42-3(1950年2月2日録音)★アントン・アレンスキー:スヴロフの思い出による行進曲(1958年2月1日録音)★アントン・アレンスキー:草原にてOp.36-24(1950年2月2日録音)★アントン・アレンスキー:子どものための6つの小品Op.34からワルツ(1950年2月2日録音)モスクワ放送交響楽団CD7★ピョートル・チャイコフスキー:幻想序曲《ハムレット》(1951年9月29日録音)モスクワ放送交響楽団★ピョートル・チャイコフスキー:幻想曲《運命》(1948年7月31日録音)大交響楽団CD8★チャイコフスキー:劇音楽《雪娘》(1951年9月17日録音)アレクサンドル・オルフェノフ(T)ザラ・ドルチャノワ(A)モスクワ放送交響楽団CD9★フランツ・リスト:ファウスト交響曲(1952年4月24日録音)大交響楽団★ポール・デュカス:交響詩『魔法使いの弟子』(1960年2月15日録音)モスクワ放送交響楽団CD10★ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン:序曲《コリオラン》(1953年11月1日録音)★フェリックス・メンデルスゾーン:序曲《ルイ・ブラス》(録音年不詳)ソビエト国立交響楽団★ジョルジュ・ビゼー:序曲《祖国》(1960年3月22日録音)★アルフレート・カゼッラ:イタリア(1960年9月7日録音)★ジョルジェ・エネスク:ルーマニア狂詩曲No.1(1956年10月4日録音)★ダリウス・ミヨー:プロヴァンス組曲(1960年5月11日録音)モスクワ放送交響楽団ガウクの芸風に触れたいという人たちは、あらかじめ彼の遺した音源がモノラル方式で、今日的な高音質を期待できないことは織り込み済みであろう。にしても音質の経年劣化は、1950年代以前の録音では相当に影響がある。また、ロシアのゴステレラジオ(メロディヤ・レーベルの親会社)からライセンスを受けて発売されているとのことだが、オーケストラの表記の杜撰さが、メロディア・レーベル界隈でのガウクの音源の扱いの粗雑さを垣間見る気がする。ショスタコーヴィチの交響曲は、あまり粘らず、サクサクと歩みを進める。ショスタコーヴィチが作品に刻印した政治当局への屈折した感情にあまり関心を示していないのは、作品解釈の時局的問題だろうか。ハチャトゥリアンの作品も豪華絢爛さを重視しした音楽作りで、ノリがよく明朗。グリンカ、チャイコフスキーやリムスキー=コルサコフの作品では、野暮ったいくらいの粘りを見せるが、どこか慣習的な表現という気がしないでもない。不思議と押しつけがましさがないところに、ガウクのバランス感覚が働いているのであろう。リストのファウスト交響曲をはじめとするヨーロッパ作品は、ニコライ・ゴロヴァノフがそうしたように、ロシア人の作品のごとく読み直して豪放にオーケストラをドライヴさせている。ただ、リストのファイスと交響曲は、第一楽章に音飛びがあるのが残念。 アレクサンドル・ガウク名演集 (Alexander Gauk Edition) 関連情報