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山本幡男 収容所(ラーゲリ)から来た遺書 (文春文庫)

 「事実は小説よりも奇なり」と言いますが、こんな出来事が本当にあったのですね。まさしく創作小説のように巧みに綴られた感動のノンフィクションです。 終戦後、ソ連軍に抑留された山本幡男氏は、満鉄と特務機関にいた経歴から「戦犯」とされ、シベリアの収容所を転々とします。日本人同士で密告し、吊るし上げる地獄絵図のような収容所でも山本氏は決して絶望せず、気心の知れた人たちとこっそり俳句の会をつくって楽しむなど、過酷な強制労働で擦り切れた仲間たちの心を癒し、励まします。「みんなで日本に生きて帰ろう」。そう言い続けてきた山本氏でしたが、最後はがんに侵され、仲間の勧めで遺書を記します。収容所で文字を書くとスパイ行為とみなされ没収されるから、仲間たちは遺書を手分けして暗唱したり、メモ書きを服の縫い目などに挟んで持ち出し、山本氏の死後2年以上も覚えていて、日本に帰還後、便箋に書き起こして次々と山本氏の妻へ届けるのです。 「最期の言葉を何としてでも日本に届けよう」と仲間たちの心を突き動かした山本氏は、人を包む温かい人柄と、そして何より、戦後の新時代を迎えようとする人々や社会に対する揺ぎない希望と信念を持った人物だったのだろうと思います。山本氏の遺書は、新しい時代を生きようとする当時の日本人へのメッセージとなっています。遺書だけでなく収容所時代の俳句や手記も仲間たちが暗唱したり記憶していて、本書に幾つも取り上げられています。山本氏の人為りが偲ばれます。 たとえ不遇でも彼のように最期まで生き抜くことができたら、それだけで価値があるのではないでしょうか。 収容所(ラーゲリ)から来た遺書 (文春文庫) 関連情報




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