春から夏、やがて冬
本書は、ミステリー作家で、
『葉桜の季節に君を想うということ』で知られる著者による長編小説。
家族を失い、スーパーで保安員として働く男と、
彼が補導した万引犯の少女を描きます。
愛する娘を失った悲しみと、
時効が成立したことへの絶望、
当初は、『捕まえた側』と『捕まえられた側』
という立場に隔てられていた二人次第に心を通わせる姿
などどの場面も印象的でしたが、
とりわけ印象的だったのは、
後半の急展開とそれが醸し出す読後の余韻です。
赦しと償うをめぐる繊細な心理描写と、
著者ならではのストーリーが見事に融合した本書
著者やミステリーのファンに限らず、
多くの方にオススメしたい著作です。
葉桜の季節に君を想うということ (文春文庫)
この作品は、書評・レビューが書きづらい作品、映像化しずらい作品です(理由は読めばわかります)。したがって、(書いておいて言うのも何ですが、)レビューなど読まずに作品をすぐに読んだ方がいいと思います。ミステリー好きにとって、1857円分の価値は十分にある作品だと思います。では、以下レビューです。私は、いわゆる「本格もの」が嫌いで、極力読まないようにしている。しかし、そのような読者でも十分に楽しめる作品である。作品の粗筋は他の書評に譲ることにするが、本作品の「大仕掛け」には、まず万人がダマされるであろう。しかし、評価すべきは「大仕掛け」以外の部分だと思う。この仕掛けがなくても本作品はハードボイルド作品として、十分に楽しめると思う。私自身も、この「大仕掛け」にやられた一読者であるが、「爽快にダマされた」というよりは、「そんなのアリ?」という感じである。初読時はページを戻って整合性を確認してしまった。あまり書くとネタばれになってしまうが、われわれの「常識」、「暗黙の了解」の裏をついた作品である。「大仕掛け」については、作者がフェアな立場を貫いており、巻末にわざわざ「補遺」をつけている点は、評価できる(間違っても補遺を先に読まないように)。本作品は、2004年板このミスで1位、2003文春ベスト10で2位を獲得した。
密室殺人ゲーム・マニアックス (講談社ノベルス)
「王手飛車取り」を1.0とするならば、1.0、2.0と続いてきた「密室殺人ゲーム」シリーズの「2.5」にあたる外伝的作品。
設定のインパクトは1.0が一番強いが、2.0の方で本格ミステリ大賞を取ったのがミソ。順に読んできた読者なら、2.0が出た時点で驚いたはず。あの1.0の終わり方で、どうやって続編が……、と。それを見事にやりおおせたから2.0で本格ミステリ大賞の受賞に至ったのだと思う。
このシリーズは設定にばかり言及されがちだが、1.0と2.0に共通するのは、短編集でありながら、1冊全体で1つの長編になっているところ。受賞時の著者の発言では、このあと三部作のまとめである「3.0」に相当する作品が書かれるはずだが、正直、きついだろなあ、と思う。1.0では、ネットワークは5人の主人公達を結びつける道具であったが、2.0はネット社会全体に枠を広げることで作品が可能になった。今回の2.5は2.0を踏まえているので、物語成立のハードルが2.0より高い。一応、ハードルは越えているので、単体作品として★4つ以上でいいとも思うのだが、1.0、2.0と比較すると、このシリーズのもうひとつの魅力である、良質の短篇の積み重ねが弱い。まあ、分量的に、前2作の約半分なので仕方ないかという気もするが、やはり、あともうひとつは「おおっ」と思わせる短篇が欲しい。
で、結果的に★3つにしようかとも思ったが、この後にきっとでるはずの3.0に期待を込めて★4つ。
3.0では、葉桜や2.0以上にわれわれを驚かせて欲しい。