盗掘でわかった天皇陵古墳の謎
天皇陵といえば、現在では宮内庁が管理し、静謐さと荘厳さを保っているという印象がある。
しかし、古代天皇陵古墳については、そのほとんどが過去において盗掘被害にあっているということだ。
治安が乱れ、天皇家の威信も衰退した室町、戦国期ならばさもありなんと思えるが、
天皇家の威信がまだまだ高かったと思える平安期、社会の安定化が進んだ江戸期にも天皇陵は盗掘被害を受けていたようだ。
驚くことには、皇室の威厳が回復した明治期以降にも盗掘が発生していた。
本書では、それら過去に盗掘被害をうけた天皇陵を、公卿や僧侶の日記、犯人を捕縛した幕府資料などの文献資料から紹介している。
古くは、平安時代の推古天皇陵、鎌倉時代の聖徳太子廟の盗掘、
近年では仁徳天皇陵、成務天皇陵の盗掘事例が、押収された埋蔵品とともに紹介されている。
また、明治期になって発見された鎌倉時代の天武・持統合葬陵の盗掘事件を記載した文献「阿不幾乃山陵記」は、
この資料の発見により天皇陵の治定替えが行われており内容も詳細だ。
本書に紹介されている盗掘事例は、いずれも犯人が検挙されるなどして事件となり文献に残ったものであり、実際にはほとんどの盗掘は記録に残っていない。
一方、現在の宮内庁による天皇陵の治定は、誤りとおもわれるものも多くある。
そのため、治定から漏れた真の天皇陵と思われる古墳が、現代になり、
学者、行政等により正式に発掘調査された事例も紹介している。
今年史跡公園化され、資料館が開館した今城塚古墳(真の継体天皇陵)、
昨年発掘され話題を呼んだ牽牛子塚古墳(真の斉明天皇陵)、高松塚古墳の近くにある中尾山古墳(真の文武天皇陵)等も紹介されている。
従来、古墳関係の書籍の一部分に盗掘された天皇陵古墳の事例が紹介されていることはあったが、
盗掘された天皇陵古墳を1冊の本にまとめたものはなかったので、古墳好きにとっては価値ある1冊だ。