ショパン名曲100
最近話題の名曲切り刻みの100曲集は、これまでクラシック音楽に縁のなかった人たちには入り口として受けているようだが、従来からのクラシックファンには、単なるBGM集でどうせ入り口で終わるだろうとあまり見向きされていない。
しかし、この名曲集は一見これまでの6枚組と同様の商品に見えながら、内実はきわめて筋の通ったショパンの作品集となっているのに驚いた。BGMでなくショパンと向き合ってみようという聴き手にも、まず取るべき入門CDとして広く薦められる。
この6枚で、ショパンのピアノ作品の二分の一弱はカバーされているし、これまでの6枚組と違って、作品の配列もまっとうである。
演奏者は、ダン・タイ・ソンをはじめとして、ショパンコンクール上位入賞者を中心に配し、ほとんどが、これまでリリースされていたCDの音源ばかりということで、これまで価格で、購入に二の足を踏んでいたショパンファンにも歓迎されるものとなっている。ティエンボは鋭角的な、ユニークな解釈を聴かせるが、他の演奏者はおしなべてオーソドックスであり、この選集でショパンのほぼ全体像が俯瞰できると言っても良いだろう。
解説書の充実ぶりも特筆される。
全体的に丁寧な作りで、メーカーの良心が感じられる、今時珍しくも素晴らしいセットです。
ショパンに愛されたピアニスト-ダン・タイ・ソン物語
ダン・タイ・ソンは、ここ十数年でさらに活躍の場を広げ、日本にも多くのファンを持つピアニストである。近年、日本人、アジア人ピアニストに対する注目が、また集まっている気がするが、僕はダン・タイ・ソンこそがアジア人ピアニストの認知度を上げた立役者であると思っている。彼の演奏はCDを聴いてもらうしかないが、この本は、彼の生き方はもちろん、音楽に対する意見が述べられており、音楽が好きな人、ピアノ曲が好きな人には、違ういみで楽しい本だと思う。「あぁ、彼はこの作曲家をこう解釈しているのか。こんな考え方もあるのか」と、違う観点からいつものクラシック音楽を発見できるだろう。
それにしても、ベトナムの戦時下、戦火を逃れながら、紙の鍵盤でピアノを練習したというエピソードには驚いてしまった。今の日本の音楽教育環境は、一体なんなのだろうか…。彼のピアノに対する情熱には、敬服するとともに、一個人として「そんなにも傾倒できるものをもっていて、幸せだろうなあ」という感慨さえも抱かせてくれた本であった。
是非、クラシックに興味の薄い人も、この一流ピアニストについて興味を持ってもらいたいと思う。