ヴァージンシネマズジャパンを1から立ち上げた山本マーク豪さんの軌跡が詳細に書かれている本書。彼の持つ思想は、映画を通じてお金もコネもない若者が日本で成功することができるということを証明するというものである。
当然本書だけではその本意はわかりませんが、本書を読むことによって、その思想を忘れなかったことは証明されるし、読む人に希望を与えるものであることは間違いない。
ストーリーの主人公が著者であるから、多少深く入り込んだところや自負の念が強いと感じる箇所もあるが、全体を通しては実に客観的に自分の軌跡を辿り、ヴァージンシネマズジャパンの軌跡を辿っている。
映画産業全体の把握からシネコン建築、資金調達、IPO(株式新規公開)に至るまで著者の想いと経緯、事実関係が述べられており、ひとつの企業小説と言っても過言ではないくらいおもしろい。
単独資本ではなく、海外からの資本を受け、ワールドワイドに事が進んでいくという日本ではまだまだ少ない事業自体を知ることもできるし、結局は人と人が物事を繋いでいくということも確認できる。本書の中で出てくるナチョチップスを販売する長岡氏との出会いなどはその典型だろう。
また、会社(特に株式会社)というものの存在価値を問う結末へと発展していくヴァージンシネマズジャパンも、六本木ヒルズ店の開業を節目として、2003年には東宝が買収し、著書であるマークさんも退任することになる。それは、攻撃的買収ではなく、あくまでも両社永続発展へ向けての買収であり、今後の日本映画産業の大きな節目となるだろう。
山本マーク豪さんの熱意と夢、多国籍企業としての役目、映画だけにとどまらないひとつの産業としての方向性、投資ファンドや投資家の利害、そして企業で働く従業員としてのあり方、夢の叶えかた、逆に従業員と仕事や夢をともにする社長としての考え方などあらゆるものが、ヴァージンシネマズジャパンと山本マーク豪さんの生き方を通して知ることができる価値ある一冊。